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かなり前の話ですが、人間工学やマンマシンインターフェースに関するお仕事をしている石黒さん(仮称)とお話をする機会がありました。

思わせぶりな仮称をつけてしまいましたが、この石黒さんはロボットを作ったりする人ではありません。

人体の動きに適した機器の開発に携わっている方です。

場所は卓球台がかたわらにある多目的ルームで、時折パソコンで画像や試合映像も見ながら人間工学的に適したプレースタイルについてご意見をうかがいました。

と言ってもほとんど雑談のノリであり、石黒さんは卓球に関して全くの初心者でした。

良くも悪くも先入観や固定観念がなく、どんな意見が飛び出すのか興味津々でした。


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 最適なラケットのタイプ
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まずはマンマシンインターフェースならぬ、マンラケットインターフェースについて尋ねてみました。

最初にシェークハンドとペンホルダーの2つについてざっと説明した後、石黒さんが導くであろう結論を私からいきなりぶつけてみました。

ピストル型とも呼ばれるハンドソウラケットと、グリップが斜めになったテナリーの画像を見せ、結局これらが最適なのではと問いかけてみました。

おおよそその通りの答えで、ハンドウソウやそれに類似の外国製ラケットがベストだとのことでした。

ただテナリーについては反応は鈍く、ハンドソウの画像と同時に見せてしまったのが失敗だったのかもしれません。

石黒さんは純粋な人間工学の見地からだけでなく、昔から使い続けられたものの存在は大きく影響することも考慮に入れていました。

シェークとペンは最初に考えつく形としてとても自然であり、それが今も主流として使われているのは十分納得できるとのことでした。

今ではすっかりマイナーなペンの握り方をどう思うかについては、例えばうちわを使う時、シェークの握りをすることが多いものの、ペンのように握る場合もあるので、その存在理由は分かるということでした。


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 意見交換で互いに刺激を受ける
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しかし意外だと言われたのは、バックハンドに大きな弱点のあるペンの選手が過去に何度も世界を制していたという事実でした。

これについて逆に私が石黒さんから説明を求められました。

強豪国の中国や日本がペンの選手を偏重して育成・強化していたからではと、ぼかし気味に答えたのですが果たして正しい分析なのか自信がありません。

昔のルールや用具だとペンのほうが有利だったと主張する人もいますし、この件について断定することは難しいですね。

現在は一応ペンも裏面打法があることを付け加えて説明しました。

石黒さんはラケットを握り数回裏面で素振りをすると「うーん。やっぱりシェークのほうが自由度が高いな」と消極的な反応が返ってきました。


次にラバーや戦型に対するご意見を伺いました。

ところが「回転をかけるのがどれほど重要なのかさっぱり分からない」と正直なお返事でした。

従って効率よく機械的に返球することだけを考えると、表面が平らでブレの少ない裏ソフトを使い、前陣で打つスタイルが良さそうとのことでした。

ドライブの引き合いやドライブ対カットは、ラリーを楽しむのには適している一方、非効率に思えるそうです。

特にカットマンの映像を初めて見た石黒さんは、なぜこんな戦法が通用するのかと驚いていました。

これら石黒さんのご意見を総合すると、最適なプレースタイルは次のようになります。

ハンドソウラケットに両面裏ソフトを貼り、前陣両ハンド攻撃、ただし回転重視ではなく高速ピッチの速攻型です。

そういう人は地球上に100人ぐらいはいると思います。

でも私はまだ出会ったことがありません。

近いタイプとしては、張怡寧選手や帖雅娜選手のような台から離れず真ん中に立ってプレーする、シェーク裏裏の女子選手でしょうか。


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 大衆に受け入れられるかは別の話
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石黒さんはあくまで机上の空論と言っていましたが、それなりに納得はできます。

ハンドウソウが生産終了したことを伝えると残念がっていました。

テナリーもあまり使われていませんし、過去にあったラケットではグリップをねじって手のひらにフィットさせる仕組みを採用したものもありました。

いくら人間工学的に優れていると説いても、実際に使ってもらえるためにはいろいろなハードルを超えなければなりません。

それはたとえば、使う人の心理的な拒絶感だったり、利益率の高い製品を売りたいメーカの思惑だったりと、石黒さんも多くの場面で涙をのんだことがあったそうです。


卓球のラケットならそれでもまだ構わないのですが、深刻な社会問題となっているのが自動車のペダルの踏み間違いです。

今の自動車のペダルはどうしてもヒューマンエラーを起こしてしまい、それを防ぐための改造ペダルが開発されています。

大切な生命を守るため、そのペダルは是非とも普及して欲しいと、最後はいたって真面目な話で終わりました。


今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

それでは、また次号をお楽しみに。

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