2012 .05.19
卓球を始めて2年になる方から質問をいただきました。
「接着剤は専用のものを使う決まりになっているそうだけど、使ってはいけない接着剤があったそうで、それはどういう違いがあるんですか」
2007年から2008年にかけて接着剤に関するルールが変更になりました。
(当時、日本国内だけが少し先行するなど若干の混乱もありました)
従来の接着剤は、その時点で発売中止となりました。
そのため、現在市販されている接着剤(液体)と接着シートであれば、どちらかを使ってラバーを貼れば問題ありません。
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2つの接着剤
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昔の接着剤は、大きく分けると2種類ありました。
「接着剤は専用のものを使う決まりになっているそうだけど、使ってはいけない接着剤があったそうで、それはどういう違いがあるんですか」
2007年から2008年にかけて接着剤に関するルールが変更になりました。
(当時、日本国内だけが少し先行するなど若干の混乱もありました)
従来の接着剤は、その時点で発売中止となりました。
そのため、現在市販されている接着剤(液体)と接着シートであれば、どちらかを使ってラバーを貼れば問題ありません。
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2つの接着剤
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昔の接着剤は、大きく分けると2種類ありました。
1.ラバーをラケットに貼ることが主目的の接着剤
2.ラバーの弾みを増すための接着剤
2は純粋な接着剤ではありません。
しかし1と同じような感じでスポンジに塗るため、製品のカテゴリーとしては接着剤に分類されていました。
弾む接着剤は「ブースター」や「スピードグルー」もしくは省略形の「グルー」などの名前で呼ばれていました。
ブースターは増幅器、グルーは接着剤という意味です。
まず、ラバーを貼るための接着剤について説明します。
現在の接着剤は水性で、さらっとした液体です。
昔の接着剤は、陶磁器などを貼り合わせるボンドのように粘り気が強く、独特の臭いを発します。
中に含まれる有機溶剤が蒸発することで発生する臭いで、シンナーと同様、体に有害な成分が含まれています。
次に、弾む接着剤であるブースターについて説明します。
ブースターは、ある偶然から生まれたと言われています。
ハンガリーに3名の強い選手がいて、ハンガリー三銃士と呼ばれていたことを以前ご紹介しました。
その中の1人クランパ選手が、弾む効果の発見者だそうです。
昔も今と同様、接着剤が乾いたあとにラバーを貼ることになっていました。
しかし、急いでいたのでしょうか、乾く前に貼り付けてしまったことがありました。
そのラバーで打つと、なぜかいつもより弾みます。
有機溶剤の揮発成分は、スポンジの中に無数にある気泡を広げようとします。
スポンジが膨張し、同時にゴムシートも引っ張られるという相乗効果により、弾みが増すことが分かりました。
メーカの開発が進み、純粋にラバーを貼る接着剤とは別の、弾むことに特化したブースターが登場しました。
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爆発的な流行
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揮発する成分でスポンジをふくらませるという仕組みのため、試合や練習の前に塗るという作業が発生します。
従って貼る接着剤は1度塗れば十分なのに対し、ブースターは何度も何度も塗り込みます。
たっぷり塗り込めば重くなりますが、弾みは増します。
分厚いスポンジに数回塗れば、膨張効果でラバーが反り返ってきます。
ゴムシートがある面は、シートとスポンジが固定されているために膨張が抑制されます。
もう片方のスポンジ面は、目一杯膨れ上がるので、シートのある面を内側に巻き込む形でくるっと反り返ります。
こんなラバーで打つとまさにぶっ飛びますし、私は仕組みはよくわからないのですが「金属音」と呼ばれる甲高いカキーンという打球音がします。
後にスポンジにあらかじめ緊張した状態を加えた、テンションラバーというものが登場しました。
最初からそのような状態になったスポンジにさえ、みなさんブースターを塗りたくり、飽くなき弾みへの執念を燃やしていました。
そうやって毎回ブースターを頻繁に塗ってもラバーは大丈夫なのでしょうか?
当然、劣化は激しくなり、今よりも寿命は短くなっていました。
ちょっと意地悪な言い方ですが、ラバーの買い替え頻度が上がり、メーカにとってはおいしい状態でした。
世界中の選手がこういうものを繰り返し使うようになると、やはり問題が起こります。
試合会場では換気の良い場所を確保して、そこでのみ塗るようにしてきました。
人体への影響に配慮した対策は取られていましたが、残念なことに揮発性物質を吸い込んだことで健康被害を訴える方が出てきました。
またシンナーと同様、吸引目的で購入されてしまうこともありました。
そのため、卓球は不健康なスポーツという悪いイメージを持たれる恐れが出てきました。
正しい使い方をしていれば問題はなく、プラモデルに色を塗るのと同じであるといった反論はありました。
しかし有害なものを使うのはやめようという考えには強い支持があり、禁止が決定されました。
実際には、禁止の決定と取り消し、時期の延期が何度か繰り返され、最終的に北京オリンピック後の2008年9月より完全に禁止されました。
これは接着剤とブースターだけでなく、有機溶剤を含むラバークリーナーなども禁止になりました。
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待望の新製品?
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さて、その後に出てきた代替製品は、昔の製品と比べて使い勝手や効果はどうなったのでしょうか?
まず普通のラバーを貼り付ける接着剤は、乾くのに時間がかり、ドライヤーを使う人もいます。
ちょっと不便だねというレベルで、それほど問題は大きくありません。
業界が大きく混乱し、今も様々な話が飛び交っているのがブースターです。
禁止になる前から、いくつかのメーカーが有機溶剤を含まない製品を開発しました。
昔のブースターには及ばないものの、それなりの効果があり、その後の改良が期待されていました。
ところがITTF(国際卓球連盟)は、ラバーに対する後加工(あとかこう)も禁止することを決定しました。
メーカが製造したラバーに、ブースターなどを塗りこんで弾みなどの性能を変えることはできないというのです。
(ラケットに貼り付ける目的だけの接着剤は問題なし)
この件に関しては、ITTFの決定が遅かったので、メーカの開発費や製造ラインへの投資が無駄になってしまいました。
他社に先駆けてエコロエクスパンダーなどの製品を開発していたジュウイック、大々的にスピードアクセルという製品を宣伝していたニッタクなどは、大きなダメージを受けたはずです。
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怪しい噂
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選手のみなさんもがっくりしたはずです。
ただ、みんなが使えなくなるという点では同じなので、あきらめもつくでしょう。
と、思っていましたが、どうもそうではない可能性があるようなのです。
現在、大きな試合ではラバーを検査しますが、そこでは検出できないブースターを塗っている選手がいるとの噂が絶えません。
「後加工は禁止されているので、あくまでもそれを守る」
と考えるか、それとも、
「客観的な方法で立証できなければ、使っていることにはならない」
か、という2つの考えになっているようなのです。
本当なのか、単なる噂なのかは分かりません。
もし本当なら、今は「正直者が馬鹿を見る」という状況になっています。
検出するすべがないのであれば、人体に無害な後加工はOKにしては、という意見があります。
私はそれがいいような気もしますが、公式に後加工を認めてしまうと、とんでもないことを考えつく人が出てくるかもしれません。
今後どういう展開になるか、大変気になるところです。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
それでは、また次号をお楽しみに。
2.ラバーの弾みを増すための接着剤
2は純粋な接着剤ではありません。
しかし1と同じような感じでスポンジに塗るため、製品のカテゴリーとしては接着剤に分類されていました。
弾む接着剤は「ブースター」や「スピードグルー」もしくは省略形の「グルー」などの名前で呼ばれていました。
ブースターは増幅器、グルーは接着剤という意味です。
まず、ラバーを貼るための接着剤について説明します。
現在の接着剤は水性で、さらっとした液体です。
昔の接着剤は、陶磁器などを貼り合わせるボンドのように粘り気が強く、独特の臭いを発します。
中に含まれる有機溶剤が蒸発することで発生する臭いで、シンナーと同様、体に有害な成分が含まれています。
次に、弾む接着剤であるブースターについて説明します。
ブースターは、ある偶然から生まれたと言われています。
ハンガリーに3名の強い選手がいて、ハンガリー三銃士と呼ばれていたことを以前ご紹介しました。
その中の1人クランパ選手が、弾む効果の発見者だそうです。
昔も今と同様、接着剤が乾いたあとにラバーを貼ることになっていました。
しかし、急いでいたのでしょうか、乾く前に貼り付けてしまったことがありました。
そのラバーで打つと、なぜかいつもより弾みます。
有機溶剤の揮発成分は、スポンジの中に無数にある気泡を広げようとします。
スポンジが膨張し、同時にゴムシートも引っ張られるという相乗効果により、弾みが増すことが分かりました。
メーカの開発が進み、純粋にラバーを貼る接着剤とは別の、弾むことに特化したブースターが登場しました。
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爆発的な流行
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揮発する成分でスポンジをふくらませるという仕組みのため、試合や練習の前に塗るという作業が発生します。
従って貼る接着剤は1度塗れば十分なのに対し、ブースターは何度も何度も塗り込みます。
たっぷり塗り込めば重くなりますが、弾みは増します。
分厚いスポンジに数回塗れば、膨張効果でラバーが反り返ってきます。
ゴムシートがある面は、シートとスポンジが固定されているために膨張が抑制されます。
もう片方のスポンジ面は、目一杯膨れ上がるので、シートのある面を内側に巻き込む形でくるっと反り返ります。
こんなラバーで打つとまさにぶっ飛びますし、私は仕組みはよくわからないのですが「金属音」と呼ばれる甲高いカキーンという打球音がします。
後にスポンジにあらかじめ緊張した状態を加えた、テンションラバーというものが登場しました。
最初からそのような状態になったスポンジにさえ、みなさんブースターを塗りたくり、飽くなき弾みへの執念を燃やしていました。
そうやって毎回ブースターを頻繁に塗ってもラバーは大丈夫なのでしょうか?
当然、劣化は激しくなり、今よりも寿命は短くなっていました。
ちょっと意地悪な言い方ですが、ラバーの買い替え頻度が上がり、メーカにとってはおいしい状態でした。
世界中の選手がこういうものを繰り返し使うようになると、やはり問題が起こります。
試合会場では換気の良い場所を確保して、そこでのみ塗るようにしてきました。
人体への影響に配慮した対策は取られていましたが、残念なことに揮発性物質を吸い込んだことで健康被害を訴える方が出てきました。
またシンナーと同様、吸引目的で購入されてしまうこともありました。
そのため、卓球は不健康なスポーツという悪いイメージを持たれる恐れが出てきました。
正しい使い方をしていれば問題はなく、プラモデルに色を塗るのと同じであるといった反論はありました。
しかし有害なものを使うのはやめようという考えには強い支持があり、禁止が決定されました。
実際には、禁止の決定と取り消し、時期の延期が何度か繰り返され、最終的に北京オリンピック後の2008年9月より完全に禁止されました。
これは接着剤とブースターだけでなく、有機溶剤を含むラバークリーナーなども禁止になりました。
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待望の新製品?
──────────────────────
さて、その後に出てきた代替製品は、昔の製品と比べて使い勝手や効果はどうなったのでしょうか?
まず普通のラバーを貼り付ける接着剤は、乾くのに時間がかり、ドライヤーを使う人もいます。
ちょっと不便だねというレベルで、それほど問題は大きくありません。
業界が大きく混乱し、今も様々な話が飛び交っているのがブースターです。
禁止になる前から、いくつかのメーカーが有機溶剤を含まない製品を開発しました。
昔のブースターには及ばないものの、それなりの効果があり、その後の改良が期待されていました。
ところがITTF(国際卓球連盟)は、ラバーに対する後加工(あとかこう)も禁止することを決定しました。
メーカが製造したラバーに、ブースターなどを塗りこんで弾みなどの性能を変えることはできないというのです。
(ラケットに貼り付ける目的だけの接着剤は問題なし)
この件に関しては、ITTFの決定が遅かったので、メーカの開発費や製造ラインへの投資が無駄になってしまいました。
他社に先駆けてエコロエクスパンダーなどの製品を開発していたジュウイック、大々的にスピードアクセルという製品を宣伝していたニッタクなどは、大きなダメージを受けたはずです。
──────────────────────
怪しい噂
──────────────────────
選手のみなさんもがっくりしたはずです。
ただ、みんなが使えなくなるという点では同じなので、あきらめもつくでしょう。
と、思っていましたが、どうもそうではない可能性があるようなのです。
現在、大きな試合ではラバーを検査しますが、そこでは検出できないブースターを塗っている選手がいるとの噂が絶えません。
「後加工は禁止されているので、あくまでもそれを守る」
と考えるか、それとも、
「客観的な方法で立証できなければ、使っていることにはならない」
か、という2つの考えになっているようなのです。
本当なのか、単なる噂なのかは分かりません。
もし本当なら、今は「正直者が馬鹿を見る」という状況になっています。
検出するすべがないのであれば、人体に無害な後加工はOKにしては、という意見があります。
私はそれがいいような気もしますが、公式に後加工を認めてしまうと、とんでもないことを考えつく人が出てくるかもしれません。
今後どういう展開になるか、大変気になるところです。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
それでは、また次号をお楽しみに。
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